僕の別居から離婚への‥心境をそして今生きる希望を探して。
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その頃、和也、君は高校進学を控えていた時期でした。
 実は、お父さんは高校受験が一斉にはじまる前から、和也が何時戻っても困らないように、N市内の私立高校への入学を手配していました。そのことは、電話が着信拒否になっていない父に依頼して、お母さんにも伝えてもらっていたの。
 三月に入って、父から「京子が高校の話を直接聴きたいそうだ」と連絡をもらいました。
 高校の二次募集も最終段階の時期だし、もう入学決定まで時間がありませんでした。
 ただ、心配があります。
 お母さんは、すぐに『一一〇番するよ』って興奮するでしょ。そんなことをされたら大騒ぎ。和也のことは心配になっていたけど、出向いて説明ができず躊躇していたんだ。
 父にそのことを相談しました。
「京子本人が聴きたいと言っていることだからな。自分でそう言っておいて、普通はそれで百十番はしないだろ」
 それはそうだろうけど……。迷っていましたけど、頭から離れない情景がありました。
 和也、君は覚えているでしょ。連れ出される前夜、進学先の高校を「N工業にしようかなって思っている」と話したことを。
 高校進学は君にとって人生の節目で、一大事。それが突然転校。君の気持ちを想うと、ここで何もしなければ、お父さんは父として役目が果たせないと考えていました。
 後悔したくない。もしお母さんが興奮して常軌を逸しても、それはお父さんが一人で背負い込めばいいこと。そんなことより、君の進学の方が心配ですし、大事です。
 お父さんは出向いて説明することにし、土曜日の休日を利用して訪問しました。

 応対したのは、おばあちゃんでした。
「なんなぁ、どうしたんなぁ」
「ええ、和也の高校進学のことで。すいません」
「ああ、あの話かなぁ。上がってもらうとこもないにぃ」
「どこでもいいです。折角来たんでお願いします」
 おばあちゃんは少し考えたけど、お父さんに玄関で待つように言い残して、奥に消えました。
 すぐに、居間の方から「はい、起きろ」とおばあちゃんの声がしました。
 もしかして、君たちを起こしているのかな? 中に入り様子を窺いました。
 おばあちゃんが、丁度、敷布団を引っ張ったのが見え、「ヒェー」と友里の声がするのがわかったよ。
 突然布団を引っ張られたのでびっくりしたんだ。
 友里、覚えている? お父さんがお邪魔したから起こされちゃって、ごめんな。
「おかあさん、そんなことしなくていいですよ。私は台所でいいですから」
 お父さんは声をかけました。
「いいから、待ってなさい」
 結局布団を片付け、君たちを二階に移動させて、居間に通してくれました。
 おばあちゃんは、お茶と漬物、みかんを出し、おじいちゃんも加わりました。
「京子はどうしたんですか?」
「今日は仕事に出てるでなぁ」
「そうですか。アルバイトですか」
「いいや、この前まで人材派遣で紹介されたとこで働いていたけどなぁ、今度は違うとこで正社員らしいんなぁ。行きはじめたばっかりなぁ」
「そうですか。土曜日なのに休めないんですね」
「そうなぁ。お金がないでなぁ。教科書も買えんでなぁ。俊介さんは制服も買ってくれんしなぁ」
 制服を買ってくれない……? 
 この言葉はね、千里、この時の春、君が中学生になったでしょ。その制服のことを言っているの。
 お父さんだって気になっていましたよ。
 でもね、君たちを連れ去り、連絡もできなくし、会わせないのは誰なの。
 この日だって、おばあちゃんは、お父さんに会わせないように、君たちをさっさと二階に上げてしまったでしょ。もしお父さんが二階に上がろうとすればどうなると思う? そう、大騒ぎです。
 買ってあげたくても、お父さんとは断絶させ、手出しもさせないじゃない。
 この時お父さんができることは、お母さんにお金を送金することだけでした。
 お父さんは、気持ちを抑えました。喧嘩をしに来たのではありません。
「和也の高校の話なんですが、京子は何と」
「いい話なんですけど、和也には何ひとつ話してないんです」
 おじいちゃんが答えました。
「じゃあ、和也の耳には届いていないのですか」
 おじいちゃんは無言で頷きました。
「時間もありませんから考えてくれませんか」
「いやあー、もう決まってしまいまして」
「えっ、どこにですか」
「○○高校だそうです」
 そう、和也、君が三年間、陸上部で青春を燃やした地元の県立高校だよね。
「……そうだったんですか。何時でも入学手続きがとれるようにしてあったんですが……」
 お父さんは無念でした。おばあちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら、言葉が出なかった。

「俊介さんなぁ、あなた、子供は物じゃないんだにぃ。あっちの学校、こっちの学校、私たちはそんなことようできやぁせんでなぁ」
 おばあちゃんは、横目でジロリと睨みました。
 物? お父さんは、君たちを物だなどと思ったことはこれまで一度もない。
「おかあさん、物って何ですか? 物扱いしたのはあなたたちじゃないですか。子供たちは、自分の家の、自分の部屋から突然連れ出されたんですよ。僕は残るって拒んだ和也に、この家には住めないって説得して連れ出したと話したのはおかあさん、あなたじゃないですか。学校をあっちこっちと転校させたのは、あなたたちじゃないですか。何か違いますか」
「…………」
 お父さんはきっぱりと言いました。
 おばあちゃんも、おじいちゃんも反論できずに、視線をそらし、下を向いて何か考えているようでした。
「トラックが来てなぁ、近所の衆も何事だって驚いてなぁ」
 おばあちゃんはまたその話しを持ち出しました。必ず何か言わなければ気が済まない。
「おかあさん、トラックを手配したのは私じゃないですよ。誰が手配したんですか。誰が荷物をまとめたんですか。それも、京子やあなたたちじゃないですか」
 おばあちゃんは立ち上がり、おじいちゃんと二人きりになりました。
 後から考えれば、この会話が仇になったんだね……。
 おばあちゃんは立腹して、お母さんと連絡を取っていたんだ。

「おとうさん、女と騒いでいる相手は、だいたい想像がつきましたけど、その人は、私とはそんな関係じゃありませんよ」
「いえ、あ、あのー、男と女の関係はわかりませんから」
 おじいちゃんは、また同じことを繰り返しました。
「おとうさん、よく考えてください。わからないということは、わからないのに、想像でこんなことをしたということですよ」
「ええー、私たちは京子さんの気持ちが大事ですから」
 ……ダメだ。おじいちゃんには、娘の京子を想うあまり、周囲が見えていなかった。いや、見ようともしていませんでした。
 おばあちゃんはお茶を入れ替えて、また出て行き、お父さんは、おじいちゃんとしばらくの間、近況を話していると、おばあちゃんが戻りました。
「そろそろお昼だでなぁ」
 帰れという催促です。お父さんもそのつもりでした。立ちあがって廊下に出て、
「和也、千里、友里。頑張れ! 負けるな! お父さんは応援しているからな」
 どの部屋にいるかわからない君たちに声をかけ、杉田家を後にしました。

 車を走らせてすぐでした。お母さんの車とすれ違い、お父さんは手を振って空き地に車を止めたけど、お母さんは止まらずに行ってしまいました。おばあちゃんが連絡して戻ったのでしょう。
 お父さんは車道に戻り、市街地を走り抜けて飯田インターから高速道路に流入したの。
 座光寺パーキングエリアに近づいた時、助手席に置いた携帯電話のバイブが唸りました。
 車をパーキングエリアに進入させ駐車し、携帯の着信を確認すると、田上次長の後任で着任したばかりの大木次長からで、お父さんはすぐに電話を入れました。
「どこにいるの?」
「はい、高速の座光寺パーキングです」
「どこに行ってた?」
「はい、妻の実家ですが……」
「さっきな、お前が勝手に家に上がり込んで、大声で騒いでいると、奥さんから一一〇番通報があったそうだ」
「……えぇー、それでパトカーが出たんですか?」
「その通報の後、すぐに、逃げて行ったから来なくていいと奥さんから電話があったそうだ。俺のところには、警察から会社の守衛に連絡があって、連絡網で話が回って来たんだ」
「そうですか。すいません。迷惑かけてしまって……」
「勝手なことしてちゃダメだよ。明日、日曜だけど、課長と俺が会社に出て行くから、お前も来てくれ。話があるから」
「はい、わかりました。すいません」
 予想どおりでした。注文相撲。やっぱりやってしまいました――。

 翌日、指定時間に出勤すると、部屋の電気も点けずに、課長と次長が待っていました。
 この時には、人事異動で課長も交代していました。
 次長に促されて、小部屋に入りました。
「あのな、事情があるにせよ、一一〇番通報されるなんてダメだよ。部下を持つ身なんだから、自覚した行動を取るべきだろう。会社の信用にも係わるじゃないか。信用失墜行為だ。いいか。僕からはそれだけだ。後は次長と話してくれ」
「大変申し訳ありません」
 課長から叱責され、深々と頭を下げると、課長は立ち上がり出て行きました。かなり怒っている。
「お前な、俺も着任の時に、田上さんから引き継ぎを受けて心配はしていたんだ。そしたらこれだろう」
「次長、申し訳ありません」
「あのさ、はっきり訊くけど、そんな状態で仕事やっていけるのか?」
「……このまま続けさせていただきたいです」
「そんなこと言ったって、こんなトラブル抱えて、本当に仕事できるのか?」
「申し訳ありません。仕事でご迷惑をお掛けするようなことはしませんので……何とか」
 ここで辞めてしまえば、田上次長を裏切ることになる。そう思っていた。
「俺が心配しているのは、お前みたいなトラブルを抱えた社員がいると、周りに与える影響が心配なんだよ。部下に与える影響が心配なんだよ。わかるか?」
「…………」
 その言葉は、大きなショックでした。しかし、自分で蒔いた種。反論などできません。
「はい。次長の御心配はおっしゃるとおりです。一重に、私の自覚が足りなかったということです。申し訳ありません」
 平謝りするしかありませんでした。
「まあ、そこまで頭を下げるなら今回はな……それで、奥さんの実家ではどんな状況だったんだ」
 お父さんはこと細かに説明しました。
「それは一一〇番通報するような状況じゃないな。家長のおじいちゃんたちと、お茶飲みながら、みかん食べてて一一〇番はないだろう。奥さんは家にいなかったのに、お前が勝手に上がり込んで逃げたと通報したらしいからな」
「どんな状況にせよ、すべて私の責任です。申し訳ありません」
「わかった。今回のことはもういい。次は通用しないからそのつもりでな」
「はい。本当に申し訳ありません」 
 お父さんは、一人部屋に残ってボーっと考えていました。
 後悔はありませんでした。和也、君の高校進学を心配するのは父の務め。
 父として恥ずべきことをしたとは思っていません。
 しかし、対組織的には、お父さんの個人的な身勝手にほかならず、迷惑をかけたことは事実です。それは深く反省するしかありません。
 お父さんは、あの日を境に、大きく変わってしまった家族関係を、人生を感じていました。

 噂は瞬く間に社内に広がりました。
「お前が不倫して、女房が子供を連れて逃げちゃったとか、暴力亭主で一一〇番されたとか噂になっているぞ。ほかの営業所でも知らない者はいないくらいの噂だ。まあ、お前の性格を知らない連中が興味本位で噂することだから、お前の耳に入っても気にしないようにな」
 M営業所の親しい先輩からの連絡でした。
 社内でも、お父さんと話す時、みんなが話題に気を使ってくれていることがわかります。
 お父さんは、段々自分の居場所がなくなっていることを感じていました。

(第五章へ続く……)


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【2012/09/27 23:28】 | 感謝の言葉とお知らせ
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